没後25年・安部公房の独特な創作テーマは、10代ですでに完成していた
作家・安部公房は いかにして生まれたか
黒い笑いと辛辣な警句を書き続ける
23歳のときに『終りし道の標(しる)べに』を刊行し、27歳で『壁―S・カルマ氏の犯罪』で芥川賞を受賞。戦後の前衛作家の代表と目されるようになり、以後、文学史に残る傑作を次々と発表していく。
1962年、38歳のときに著した『砂の女』では、人間を支配する不条理な社会を砂に見立て、そこから逃れようとジタバタする男を描いた。白く乾いた砂丘になかば埋もれた家に迷い込んだ昆虫採集家は、そこに住む女と同居することになってしまう。やがて「砂」から脱出するチャンスをつかみながらも、男は村人たちを救うべくそこに残ることを決意する。そして男は思う《べつに、あわてて逃げだしたりする必要はないのだ。》と。『箱男』(73年)は会社も家庭もすべての「帰属」を捨てた「人間」の手記だ。
60年代以降、世界的な作家となった公房には、フランスのアラン・ロブ・グリエ、イギリスのデヴィッド・ミッチェル、アメリカのポール・オースターなど、海外の作家のなかにも愛読者が数多い。
人間とはいったい何か――。
この問いかけを、乾いた文体と黒い笑いと辛辣な警句を散りばめて書き続けたのが安部公房だ。
〈雑誌『一個人』2018年4月号より構成〉
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